2017-09

The Eye を聞きながら・・・・・・。短編小説。 - 2017.06.02 Fri

The Eye (Japanese Ver.) を聞きながら・・・・・・。

ウヒョン ver

タイトル:「アンビバレントな香り




 今日は、とても疲れていた。新曲の歌詞がなかなか覚えられなくて、一昨日から睡眠不足ぎみだったせいだろうか。どこも痛くはないのに、風邪をひいたようなダルさもあった。俺は、ホテルのチェックインに手間取っているマネージャーを遠目に見ながら、エレベーター前で、苛立っていた。

 深夜ということもあって、シティホテルのロビーは、しんと静まり返っている。出入りする利用客も、まばらで、すれ違ったとしても互いのことなど気にも留めない。普段の俺なら、堂々と、フロント前にある大きなソファーに腰掛けているだろう。でも今夜は、マネージャーを急かしたくて、おとなしく座って待つことはできなかった。

 明日も早朝から、スケジュールが詰まっている。わずかな時間だとしても、こうして待たされている時間が、勿体無くて仕方ない。早くベッドで横になって、体を休めたいのに。

「モーニングコールは、いつも通り5時でお願い」

 早足で駆け寄り、言い訳を繰り返すマネージャーから、素早く部屋のカードキーを受け取った。俺は、部屋番号を確認してすぐに、上の矢印ボタンを押した。

「6時でも間に合うと思うけど」
「いや、メンバーに会う前に振り付けも確認しておきたいし。他にも、やることたくさんあるし」
「相変わらず努力家だなぁ。そういうとこ、すごく尊敬してるよ。ウヒョンさんのそういうところが、ファンの心を鷲づかみにしてるんだろうね」

 そんなにも、しかめっ面をしていたのだろうか。マネージャーは、俺のご機嫌を取ろうと必死だ。一人で、空回りしていることに気づいていないのが痛々しくてたまらい。

「ふーん。ありがとう。これからも努力するよ」

 適当に相槌を打って、話を聞き流そうとしても、眠さのせいで我慢できそうになくて。エレベーターが空くと同時に、大きなあくびをしてしまった。少し、ふら付きながらエレベーターに乗って、壁に凭れかかる。肩に掛けていたボストンバッグの重さが少し気になったが、そのまま目を閉じていると、どこからか聞き覚えのある声が聞こえた。

「こんなところで、会いたくなかったに」

 この声は・・・・。まさか、そんなわけがないだろう?

 慌てて、エレベーター内を見渡してしまう。閉ざされた空間で、うろたえても無様なだけなのに。振り返ると、そこにはマネージャー以外にもう一人、俺の良く知っている女が無愛想な顔つきで突っ立っていた。

「偶然って怖いわよね。どれだけ願っても会えなかったのにね。疲れてる時くらいは、穏やかな気持ちのままベッドに入って寝たかったのに、本当、むかつくわ」

「あの、こんなところで、口論されたら困りますよ!」

 しばらくの間、状況を把握することができなくて。ただ、ぼんやりと、二人の会話を他人事のように聞いていた。

 俺は、の事を、嫌というくらい知っているつもりだ。全て知り尽くしているといってもいいかもしれない。非常に恥ずかしいことだが、大声を出して、関係のないマネージャーにまで怒鳴りつけているこの女は、まだ、俺の彼女という存在だった。元彼女と呼べないこともないのだが。別れようとしても、別れられないのなら、俺の今の彼女は、のままなのだろう。

 つきあって2年くらいから、すれ違いが多くなった。不満をぶちまけることが多くなって、喧嘩ばかりになった。温もりを求めても、安らぎが得られず二人の距離は、どんどん離れていった。

 悩んだ末、別れを拒絶し続ける、を納得させるために、冷却期間を提案したのは俺のほうからだった。そして、に会わなくなり、電話やメールでしか会話をしなくなってから、半年が経った。

 仕事が忙しいとか、疲れているからとか、その場で言い訳を繰り返した。会うことを拒絶し続けて、半年後に、ようやくは、「会いたい」と望まなくなった。諦めたといったほうが正しいのかもしれない。その反面、当然のことだが、電話やメールでは、執拗に嫌味を言い続ける日々ばかりになった。

 俺は、会わないで済むなら・・・・と、さらに強く醜態していくを素直に受け入れた。こんな末期すぎる関係は、時間が過ぎれば、自然に消滅していくものだと思っていたから。

 そうなることを、願っていたのに。完全な終わりが来る前に、こんなふうに、再会してしまうなんて。

 もう、顔も思い出せなくなるほど、忘れてしまっていたのに。

 絶対に、会いたくなかったのに。

 一般人だとしても、は、偶然を装って待ち伏せするほど、暇人ではない。パッと見ただけだが、ノーメイクに近いほどの薄化粧に、長袖の白いシャツにGパンというラフな服装は、誰かに会うために、めかしこんだ服装とも思えない。

 人一倍プライドの高いが、尾行していたのなら、もう少し色気があり、体のラインを挑発した服装で、会おうとしただろう。右手には同じように黒いボストンバッグを抱えていることから、俺と同じ状況だということは簡単に予想できた。

 最後に会ったときは、肩までの長さだったのに、髪が随分と長くなった。仕事が多忙すぎるのか、多少、痩せた気がする。聞きなれていたはずなのに、電話よりも低すぎて、声すら違和感を感じてしまった。会わない期間が長すぎたせいだろうか。全くの他人のような気がした。

 俺は、出会ってしまった理由を、自己分析して、早々と終了させると、視線をエレベーター内の階数ボタンに向けた。気が付くと、エレベーターの扉が開いていた。降りて、部屋へと向かう途中の廊下で、ホテル独特の匂いが鼻についた。清掃時の除菌剤などに含まれるこの匂いは好きじゃないのに。

 俺は、カードを差し込んで、部屋のロックを解除してから気が付いた。もうマネージャーはいないのに、なぜか隣に、がいたままだということに。

「早く開けてよ。お互い、こんなところ、誰かに見られるわけにはいかないでしょ」
「ああ・・・・」

 急かされるままに、ドアを開けた。ドアを閉めてから、の顔を改めてじっくりと凝視してしまう。視線が絡み合うと、なぜだか、俺の方から逸らしてしまった。もっと、堂々としているべきだったのかもだが。

「どうしてが、ここにいるんだよ」
「仕事で偶然にも同じホテルに泊まる事になって、それも同じ時間にエレベーターで乗り合わせてしまったからでしょ」
「そうなのか。分かっていても、本当に、目の前にいるのがだという実感がないっていうか」

「もしかして、私が誰か分からなくなるくらい酔ってるの?」
「酒は飲んでない。疲れてるだけ。でも、酔ってる時と同じくらい、頭が回ってない」

「そうじゃなかったら、頼み込んでも、部屋になんて入れてくれないよね。最近は、電話もまともにくれなくなったし、メールすら適当な返事ばっかりになってるし」

「今は、言い合いとか、喧嘩する元気もないわ・・・・、1時過ぎてるし、疲れすぎてるし。とりあえず、水を飲ませて」

 部屋に備え付けてある冷蔵庫から、冷たいミネラルウォーターを取り出した。一気に半分くらい飲み干して、勢いよく喉を潤す。飲み終えると、少しだけ、眠気が覚めた気がした。

 俺は、ダブルベッドの上に、靴を脱いでから座り込んだ。今夜は、混雑していて、ダブルの部屋しか空いていなかったらしい。こんな部屋で、と二人きりになるなんて。勘違いされたくないから、今すぐにでも、追い出したいところだが、愚痴の一つや二つでも聞かないと、納得してもらえないだろう。

 きっと、話は長くなってしまう。朝までかかってしまうだろう。倒れそうなほど、疲れているのに・・・・・。

 なのに。

 部屋中に、の甘い香水の匂いが漂うたびに、喉の奥が熱くなっていくのが怖くてたまらなかった。俺の胸は、熱を帯びたまま、ゆっくりと軋み始めた。




2017/06/02




 なんとなくだが部屋が暗すぎる気がして。俺は、ベッドサイドにあるパネルを調節して、照明を最大にした。は、ベッドの隅に座ると、壁際に寄りかかった俺を、じっくりと見つめた。大きな瞳が瞬きを繰り返すたびに、激しく動揺してしまう。

 黙ったまま、責める目つきで、執拗に睨み続けている感じ。それなのに、どうしてかな。その瞳は、眩暈をしてしまいそうほどに魅力的で。無表情で、とても冷たいのに、美麗な瞳に吸い込まれてしまいそうになる。

 終わらせたかったはずの恋なのに、その瞳に見つめられるたびに、心が揺れ動いていくのが分かった。俺は、胸の苦しさに耐え切れなくなり、沈黙が怖くて、話を切り出した。

「直接会うのは・・・・、1年ぶりくらいか?」
「たぶん、それくらいかもね」
「こんな関係じゃ、つきあってるといえるのか分からないかもだけど」

「何言ってるの?当然、つきあってるにきまってるじゃない」

 眉ひとつ動かさず、淡々と答える。冷静に問い返されて、俺は、言葉を濁らせた。長い髪を、細い指先でかきあげると、耳元で見たことのないゴールドのピアスが揺れた。

「いや・・・・・」
「別れ話をしたって無駄よ」
「もう、お互いに心だって離れてしまっているのに、ダラダラとつきあってる意味が分からない」
「絶対に別れないわよ。あなたは、いつまでも、私の彼氏なんだから。たとえ会うことができなくても、ずっとね」

 指先にも、首元にも、手首にも。見たことのないアクセサリー達が輝いていて。俺が見慣れたモノは、何一つなかった。せめて一つでも、俺がプレゼントしたモノが光っていれば、湧き上がる嫌悪感は押さえられたのだろうか。

 苛立ち始める俺とは正反対には、穏やかな口調で答える。美麗な瞳は、静かに俺を見据える。でもその声には、笑みのひとかけらも含まれていなくて。そのことが、たまらなく空しく思えた。

 俺は、このまま話を続ける気持ちになれなくて、ベッドで横になり背を向けた。背を向けた理由はそれだけじゃない。これ以上、の瞳にも惑わされたくなかったんだ。冷静なとは反対に、動揺を抑えきれない自分自身が情けなくて。クールすぎるに、これ以上、話の主導権を与えたくなかった。

「何度も言ってるけど、の事はもう愛してない。1ミリも愛情なんて残ってない。だから、いい加減に別れてほしい」
「相変わらず、ストレートに言う人ね」
「何を言っても、堪えない女だから問題ないだろ」

「まだ話の途中なのに、横になるとかありえないんだけど」

 バンッ!突然、何かが壁にぶつかる音がした。慌てて上半身を起こすと、俺の手の側に、テッシュケースの箱が落ちていた。どうやらが、壁にテッシュケースを投げつけたらしい。穏やかな口調だったから、怒っているようには見えなかったのだが。

「隣の部屋に迷惑がかかるだろうが」
「そうね。ごめんなさい。あなたに投げつけるべきだった」

 の、顔つきが強張った。けれど、怒っているのか、そうでないのか分からなくて。行動とは間逆に、口調や表情は、穏やかすぎた。

 喉が渇く・・・・・・。胸苦しさも、一向に引きそうにもない。体がダルくてたまらないのに、俺は、ベッドから起き上がることにした。再び、水を飲もうと飲みかけのペットボトルを掴んだ。

「曖昧な関係だとしても、私の心と体、両方を深く傷付けた代償として、あなたのほうから言い出したことじゃない」

には、充分すぎるほど尽くしてきた。その間、浮気もしてないし、他に女を作らず、のために時間を割いてきたし、愚痴や嫌味も、逃げずにしっかりと受け止めてきた。だから、もう、いい加減に解放してくれてもいいと思うのだが」

「まだ、私が飽きてないから無理。飽きるまで、ずっと彼氏でいてくれる約束でしょ」

「じゃぁ、今すぐ飽きて」

 一口、冷たい水を含んで、ため息を吐いた。どう言えば、納得させられるのかと頭が痛んだ。けれど、無駄なような気がして。空気に溶けて消えていくような空虚さを感じた。

 俺は、ふと、思った。どうして、いつまでも、こんなことを繰り返しているのだろうか。どうして、は、ここまで俺に執着し、別れまいと固持するのか。優しい言葉のひとつもかけてやれない俺に見切りをつけたほうが、幸せになれるはずだろう?

 なのに、なぜ?

 ああ・・・・・・。そうだったのか。

 愛情なんてとっくの昔に消えて、愛憎に変わってしまったと、分かっていたはずなのにな。どうして、今まで気が付かなかったのかな。

 いや、本当は気付いていたんだと思う。だから、今日みたいな日が来ることが、怖くてたまらなかったんだ。

 は、自分自身が幸せになることよりも、俺に精神的な苦痛を与え続けることを選んだ。いつまでたっても孤独で、虚無感しか残らないのに。から離れて自由に、違う場所で幸せになってしまう俺のことを、どうしても許したくなかったんだな。

 腕の力が抜けてしまい、思わず床に、ペットボトルを落としてしまった。落としたペットボトルから、ほとんど残っていなかった水が、小さな水溜りになって床に散らばった。

「いや、違う。は賢い人だから、とっくの昔に飽きていて、俺達の関係が終わってるってことを自覚してたはずだ。なのに、いつまでも俺に粘着する理由は、ただ一つ」

 俺は、冷蔵庫からミネラルウォーターではなくて、炭酸水の入ったペットボトルを取り出した。フタを開けて、飲もうとしたが、指先に力が入らない。もたついていると、背後から足音が聞こえた。ベッドから立ち上がって、が、ゆっくりとこちらに近づいて来る。

 けれど、は、黙ったままで。振り返った俺は、静かすぎる部屋で、自問自答しながら、詰め寄った。

「嫌がらせがしたいだけなんだろ?俺が苛立つ姿を見て、楽しみたいだけだ。今だって、俺の苛立った顔を、楽しそうに蔑んでる」
「へぇ・・・・。そんなふうに見えるんだ」

のほうこそ、俺への愛情なんて1ミリも残っていないくせに。愛してるとか、捨てないでとか、戯言を聞いてきたけど、全部、俺に粘着するためだけの嘘だったなんてな。心底、役者だよな」

 は今夜、初めて俺の前で頬を緩ませた。全てを見透かされてしまったわねと、苦笑いした感じ。微笑んだ瞳の明るさは、知っているのものだった。

 何年ぶりに見た哀しい笑顔だろうか。俺が恋しいと、狂おしいと、泣き崩れた後に見せる哀しい笑顔が、重苦しくてたまらなかった。今もそう。その笑顔を見て、同じように、この場から逃げ出したいと願ってしまっている。なのに、捕らわれて、身動きすらできくなってしまうんだ。

 苦笑いを押さえるためなのだろうか。は、哀しい瞳のままで微笑み、下唇を小さく噛み締めた。

「せっかくの1年ぶりの再会なのに、電話と同じように喧嘩したがるのね。私は、構わないけれど」
「その顔は、久しぶりに会った彼氏に見せる表情じゃないと思うが。どちらかといえば、運悪く元彼に出会ってしまって、最悪って感じ」

「あなたは・・・・、私に会えて、結構、喜んでそうだけど」
「はぁ?どうしたら、そう見えるんだ?」

「私を見る目が、優しすぎるもの。今だって、私が恋しくて仕方ないんでしょ」
「ふざけたこと言うなよ!お前になんて、これっぽっちも未練ねーよ!」

 急激に頭に血が上り、怒鳴り声を上げてしまう。は、驚いて身をすくませた。取り乱してはいけない。冷静にならなければ。俺が苛立つように、怒り出すように、挑発しているのだ。いつもそう。こうやって、は、俺を苛立たせる。

 結局は、こうなってしまうんだ。互いに罵り合うだけ。その繰り返し。無意味に傷付けあうだけなのに。

 いつまでも、出口のない暗闇に閉じ込められる。を、振り切ることもできず、幸せだった日々に戻ることもできず。

 でも。

 が、決して、俺の元を去ろうとしなかったことは、小さな希望を抱かせていた。それが、愛憎からの執着だと分かっていても。だから、いつまでたっても、絶縁できなかったんだと思う。

 まだ、心の奥には、俺への愛情がわずかにでも残っているはずだと、期待していたんだ。

 わずかでも、残っているはずだって、信じたかったよ。




2017/06/04




「私の事が本当に嫌いになったのなら、電話番号を変えたらいいし、メールだって無視すればいいじゃない。そうしなかったのは、縁を切れなかったのは、あなたのほうが私に、未練があったからでしょ」

「即効で、番号変えるわ。アドバイス、ありがとう」
「そんなこと、できないくせに。絶対にできないわよ!」

 突然、は、大声を上げた。胸ぐらを掴んで、強引に俺の持っているペットボトルを取り上げようした。なぜ、そのような行動をとったのかは理解できないまま、二人は揉み合いになってしまう。腕を押し合う勢いで、緩んだフタがカランと音を立てて、床に落ちた。その瞬間、フタの開いたペットボトルから、冷たい水が飛び出して、俺の顔にかかった。

「おい、やめろよ!水が、かかるだろうが」

 俺は、ペットボトルをとっさに手放した。水の取り合いをしても、何の意味もないからだ。前髪や顔にかかった水を指先で拭おうとしても、上手くできなかった。指先からは、水の雫がポタポタと落ちていく。俺は深いため息を付くと、タオルを探しにバスルームへと向かった。首にタオルをかけて、顔を拭う。なんとなく鏡を見ると、疲れきった自分の顔が映っていた。

「ひどい顔だな・・・・・」

 がいる部屋に戻る気にはなれなかった。このまま、黙って、俺の部屋から出て行ってほしいとさえ望んだ。しばらく呆然と突っ立っていると、バスルームの扉がゆっくりと開いた。

「水がかかったくらいで、怒らないでよ」

 は、ドアの前で、薄ら笑いを浮かべる。そして、俺から取り上げたペットボトルの水を、自ら頭にかけはじめた。その光景に、言葉を失い、俺は、その場で立ち尽くした。

 髪から流れた水は、鼻筋、首筋を伝わって、白いシャツをしっとりと濡らしていく。空っぽになったペットボトルは、手からスルリと落ちる。カランと甲高い音を立てて、床に落ちた後、数回転がった。

 呆然と水浸しになったを眺めていると、小さく、哀しく微笑んだ。大きな瞳が瞬く間に、涙で溢れ、潤んでいく。

 どうして、その、哀しい瞳で、俺を見続けるのか。まさか・・・・?

 見せる必要がないのなら、見せつける相手がいないのなら、アレは、やっていないはずだろう?

 その時、俺は、とっさにの手首を掴んでいた。瞬間、目にしたくなかった傷跡を見てしまう。手首を横切る薄っすらとした傷跡。無数に流れる細い傷跡は、まだ、新しかった。

「まだ、リスカやめられないのか」
「何をそんなに驚いてるの。今はもう、全く、痛みを感じなくなってしまったの。見てくれる人もいないから、つまらないんだけど、癖だから直らなくて困っちゃう」

「病みすぎだろうが・・・・」

「なんて顔をして、私を見るの。そうやって、哀れみの眼差しを向けられると、もっと、もっと、憎くてたまらなくなるじゃない」

 弱弱しく震える声を聞いていると、抱き寄せたくてたまらなくなった。けれど、絶対にそんなことはしてはいけない。再び、受け止めてしまえば、より深く傷付けることになってしまう。のもろさを受け止める覚悟なんてないのだから。

 俺は、首にかけていたタオルで、の髪を拭った。無意識に、手を伸ばしてしまう。そのまま撫でようとして、指先が顔に触れた。その頬は、とても柔らかくて温かかった。は、大きく目を見開いて、俺を見上げた。潤んだ瞳から、水なのか、涙なのか分からない大粒の雫が、零れ落ちた。

「こうやって見上げると、水のせいなのに、泣いてるみたいに見えない?」
「どうかな。涙だったら、らしくない」
「あなたが、憎くて、ぞくぞくする。憎くてたまらないの。震えているのは、あなたが恋しいからじゃなくて、憎いからよ」
「もう、言うな・・・・、それ以上、聞きたくないよ」

 抱き寄せることもできず、ただ、消え入りそうな声に耳を傾け続けることしかできなくて。肩を震わせて、涙に堪えている姿が、苦しくてたまらなかった。手渡したタオルで顔を拭うと、は、真剣な面持ちになった。そして、力強く、タオルを握り締めた。

「ねぇ、どうして、側にいてくれなかったの。私が、一番、苦しいときに。すごく苦しくて、あなたが恋しくてたまらなくて、狂っていた時に」
「本当に、ごめんな」

「・・・・、で、欲しい」

 自分の耳を疑った。

 え?何て言ったの?

 聞き取れないほどの小さくて低い声だった。なのにその声は、怨念のように凄まじかった。向けられた憎悪は、俺の心臓を一気にナイフで突き刺した。全身に強烈な痛みが駆け抜けていく。絶望感に襲われて、頭の中が真っ白になっていく。

「死んでくれたら、私だけのモノになるのに。だから、今すぐ死んでほしい」

「そんなにも、死んでほしいって願うほど、俺が嫌いなのか?」

「せめて、私が苦しんだぶんだけ、苦しんでよ!それ以上に、苦しんで不幸になってよ!あなたなんて、地獄に落ちて、死ねばいいのに!」

 バスルームは声がよく響く。そんなに大声を出さなくても、充分すぎるほど聞こえるのに。無力感に襲われ、何も考えられなくなってしまった。俺は、全身から力が抜けたようにその場に座り込んだ。

uhyo3368.jpg


 もう、成す術も見つからない。ただ、繰り返される罵り声を、無言で聞き流すしかなかった。

 そんな中、は、いつまでも、鋭い目つきで睨み続けた。俺は、ぎゅっと唇を噛み締めて、の顔を見上げた。

「なんて目で・・・・・、俺を見るんだ」

 嘆きのような深いため息に包まれる。立ったまま、俺を見下ろす瞳は、氷のように冷たかった。哀れみ蔑むような眼差し。そこにはもう、愛情の痕跡すら残っていなくて。頬に伝わる涙が掌に落ちたとき、失った愛の儚さを知った。

「愛憎と愛情は紙一重だって良く聞く。だからかな。そんな目で俺を見るから、一瞬でも期待してしまったことが悲くて」

「なのに・・・・・・。はもう、俺が憎くてたまらないっていう感情しか、本当に残っていないんだな」

 俺は、薄っすらとしか思い出せない記憶の中で、優しく笑うを浮かべ、静かに微笑んだ。

 振り返ることもなく、サヨナラも言わない。長くて苦しかった恋に終わりを告げて、はゆっくりと背を向けた。

 手を伸ばしても、もう、小さな背中に、俺の声は届かなかった。





2017/06/07






eye3356.jpg



アルバム:AIR
トラック06:The Eye (Japanese Ver.)
INFINITE

スポンサーサイト

● COMMENT ●


管理者にだけ表示を許可する

“Y’s SONGのチケットが届きましたと、SMTの当落結果。 «  | BLOG TOP |  » Highlight CALLING YOU発売~

短編小説名前変換用ソフト

初期設定は「君」になってます 他の名前に変更したい方は、名前を記入してから、変換してください。 PCのみの対応になります。

プロフィール

ちゃぴ子(りぞこ)

Author:ちゃぴ子(りぞこ)
k-popでの初恋はユチョンでした。

私の好きな曲紹介。(ソロ曲含む)

SHINee
1.LUCIFER 2.vew 3.BETTER 4.Prism 5.Press Your Number

スーパージュニア
1.My Love,My Kiss,My Heart 2.Devil  3.SORRY, SORRY 5.Let Me Kiss

EXO
1.Overdose 2.Artificial Love 3.LOSE CONTROL  4.Exodus


東方神起
1.Off-Road 2.Something 3.呪文 -MIROTIC- 4.Champagne


BEAST
1.12:30 2.Beautiful Night 3.Fiction 4.caffeine 5.Mystery 6.No More 7.CAN'T WAIT TO LOVE YOU 8.Whole Lotta Lovin

ジェジュン
1.Don't Walk Away 2.Love You More


その他 (順位関係なしで)

EXID – UP&DOWN
Twice – TT
INFINITE - The Eye、Paradise
テヨン - Why
BTS - Blood Sweat & Tears、I NEED U
チャン・ジェイン - 幻聴
XIA - Turn It Up 、X Song
CNBLUE - LOVE GIRL
BoA - Only One
ユチョン - I Love You 、彼女と春を歩く
ASTRO - Again


2016/01/01屋根部屋プリンス一挙放送でユチョンを知る。そこから、k-popアイドルに夢中になりました。

SHINeeやEXO、SUPER JUNIOR、BEAST、東方神起、ジェジュンの音楽が好きです。

記録)

2016/02/01 東方神起FCに加入。
→2017年 2年目 継続

2016/08/18 SHINee FC加入。
→2017年 2年目 継続


2017/03/22 スーパージュニアFC加入。


短編小説は、性的表現を含む小説もありますので苦手な方はご遠慮ください。現在のところ、BL小説はありません。男×女の恋愛小説です。

文才のない素人ですが、楽しみながら一生懸命書いてます。ご訪問者様にも楽しんでいただけると嬉しいです。
ウェブ拍手大歓迎(*´~`*)

当ブログで使用している画像・動画の著作権・肖像権は全て著作権元・肖像権元に帰属し、その権利を侵害するものではありません。写真はお借りしています。


にほんブログ村


二次小説 ブログランキングへ



↑↑
小説ランキング参加してます。 クリックしていただけると喜びます。

にほんブログ村 芸能ブログ SHINeeへ
にほんブログ村


SHINee ブログランキングへ

にほんブログ村 芸能ブログ 韓国男性アイドル・アイドルグループへ
にほんブログ村

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カテゴリ

未分類 (1)
beastのメンバーと音楽紹介 (1)
JYJ (1)
東方神起(2011年~) (7)
東方神起(結成メンバー5人) (8)
ユチョン (13)
チャンミン (4)
ジェジュン (5)
ジュンス (10)
SHINee(オニュ、テミン) (40)
Super Junior (イェソン) (23)
Highlight (BEAST) (26)
EXO(シウミン、cbx) (22)
INIFINITE (0)
雑談日記 (60)
スターポップとラブプラ(スマホゲーム) (11)
JYJ金額一覧(2016) (1)
東方神起(5人、2人含む)金額一覧(2016) (1)
東方神起 金額一覧(2017) (0)
SHINee 金額一覧(2016) (1)
SHINee 金額一覧(2017) (1)
EXO cbx ソロ含む 金額一覧(2017) (0)
SUPER JUNIOR イェソンソロ含む 金額一覧(2017) (1)
BEAST 金額一覧(2016) (1)
K-pop その他(bts 、HIGHLIGHTとか) 金額一覧(2017) (0)
宝塚歌劇 OBとか、韓国俳優とかの雑談 (12)
ショートメール(短い恋文) (5)
短編小説(彼女と春を歩く) (1)
短編小説(サミラミチ) (1)
短編小説(Be My Girl) (1)
短編小説(Something) (1)
短編小説(Intoxication ) (1)
短編小説(Creation) (1)
短編小説(Heartquake) (1)
短編小説(Catch Me -If you wanna-) (1)
短編小説(ひまわりの約束) (1)
短編小説(GLAMOROUS SKY) (1)
短編小説(Off-Road) (1)
短編小説(Champagne) (1)
短編小説(Secret Game) (1)
短編小説(Sorry Sorry Answer) (1)
短編小説(caffeine) (1)
短編小説(さよならひとり) (1)
短編小説(美しい夜だ/Beautiful Night) (1)
短編小説(monster) (2)
短編小説(LUCIFER) (1)
短編小説(BETTER) (2)
短編小説(Don't Walk Away) (1)
短編小説(My Love, My Kiss, My Heart) (1)
短編小説(View) (1)
短編小説(Lose Control) (1)
短編小説(Lucky One) (1)
短編小説(ABOAB) (1)
短編小説(The Eye) (1)

待ってるよ~!

カウンター2016/03/09設置

検索フォーム

リンク

このブログをリンクに追加する